ref20131002銃と魔法 銃はなぜファンタジー(剣と魔法の世界)に馴染まないのか
銃と魔法
はじめに
このコンテンツは、もともとは『トーキョーN◎VA』のカブトワリを説明するコンテンツの一部だったものだ。(→mar021700カブトワリ)しかし魔法とテクノロジーの関係を考えるケーススタディとして、ほかのシステムにも役立つと思い、参照資料として独立させた。
Q:銃はなぜファンタジー(剣と魔法の世界)に馴染まないのか
『トーキョーNOVA』のゲーム世界であるニューロエイジは、現実世界の近未来にあたる。そこでも現実と同じように、暴力の主役は銃だ。と同時に、この世界には魔法が存在する。
もちろん現代風であっても、魔法のある世界にとって、この銃ってヤツはナカナカ厄介な代物だ。ましてや昔ながらの「剣と魔法の世界」なら、なおさらだろう。
今回の元ネタはこれ、匿名掲示板2chのこのスレッドだ。すでに巷でもこの問題が話題に上っていた。やはり、みんな困っていたのだ。これに我々なりの考えを示そうと思う。
◆ TRPGにおける銃アンチスレ ◆
522 :NPCさん:2007/12/25(火) 22:30:41 ID:???(ID:???)
つか銃の問題点は、
1 銃の登場による科学的現実感の侵食、ファンタジー世界の雰囲気破壊、
2 技術レベル問題の発生
3 銃が強すぎれば射撃戦主体になって剣が目立てない (大多数の剣ユーザーへの配慮)
4 銃が弱すぎれば使う意味が見出せない
5 強さがほどほどなら、弓と競合しやすく、弓との差別化が難しい
523 :NPCさん:2007/12/25(火) 22:34:10 ID:???
リアルリアリティ厨が出現しやすく、それによるセッションの雰囲気の破壊
これすげえ重要
A1:身体の延長として扱いにくいから
まずは身体性の問題から見て行こう。昔ながらの「剣と魔法の世界」では、道具や設備に大きく依存する行為は、なじみが薄いと思う。そもそも、キャラクター個人の能力に力点を置くTRPGにおいて、相性が悪い。(→hekc091002能力と装備)
●生身=拳、爪、肘
体そのもの、次点として顎の歯=牙や嘴、足や尾、角がある。ブラスナックルやかぎ爪のように身体に装着するタイプもここに含む。
●手持ち武器=ナイフ、剣、棍棒、斧、槍、鞭
手に持って使う。白兵戦武器全般。剣と魔法の世界の主力武器。
●投擲武器=投げ槍、ダーツ、石、ナイフ、手裏剣
手で投げる武器、多くの場合手持ち武器としても使える。基本的に使い捨て。
●発射武器=スリング、弓
使用者の腕力を、武器を通して威力に変える。
●発射武器(動力なし)=クロスボウ、空気銃
使用者の腕力である必要はないが、エネルギーは必要だ。力が保存できるので使用者の腕力に依存しなくなる一方、複雑な機構を持たないため、多くの場合は誰か(主に使用者)がエネルギーを提供する。
●発射武器(動力あり)=火薬銃、ガスガン、コンプレッサ付き空気銃、巻き上げ機付きボウガン
化学的、電磁的エネルギーを威力に変える。火薬の爆発力、磁気の反発力などに加え、ガソリンエンジンや電気モーターなどによる動力もここに含む。
身体の延長としての武器を考えた場合、その基本は手の延長だ。(→hekc090602手の魔術~掴む手と触れる手)特に筋力を変換して使うものはまだ良い。
しかし銃のように他の力で発射物を飛ばす場合、使用者の筋力に依存しなくなる。すると半ば独立した存在になってしまう。それは自分とは別のものということだ。
しかしこうした存在は、サイバーウェアレベルまで行ってしまえば、人工の腕の延長として、逆に違和感が減る。
実際ニューロエイジの銃器は、もともとコンピューター制御で電子機器化されている。サイバーリンク機能なども付けられ、人工の身体、サイバーウェアの一種になっている(むしろ電制なしの現実の銃の方が中途半端だ)。
身体性という点では、むしろ発射物≒弾の方が絶望的に遠い。投擲・射撃武器は基本的に、発射物を敵に当てることで効果を発揮する(それが発射武器の定義だから)。
銃の場合、火薬を爆発させてその勢いで弾を飛ばして相手に当てると対象が・・・というややこしいかつ間接的に効果を発生させているので、使用者の意志を直接反映させるのがさらに難しくなっている。
さらに問題がある。実は銃の本体は弾だ(銃は弾を入れるただの筒だ)。銃の基本能力は弾で決まる(炸薬の量と弾の材質とかね)。つまり弾が使用者から独立しているから、使用者の能力が反映しないのだ。
逆に使用者の能力を反映した弾が作れると、それが他人にも使えてしまうので、これもややこしくなってしまう(どんな弾かは分からないが、そしてばら撒かれた弾が残ったらもっとややこしい)。
いずれにしても、銃を活かそうとすれば、銃に特化したシステムが必要になるだろう。それぐらい、銃は“個性的な”ガジェットなのだ。
A2:設定が難しい
銃の原理を現実と同じ科学にするか、あるいは何か特殊な魔法のようなものにするか、どちらの場合でも問題が発生する。
まず科学にした場合、その世界は科学的な発想が可能な世界ということになる。科学と魔術の違いを明らかにするためには、どちらにも十分なディテールが必要になるだろう。
そもそも、科学が成り立つ世界設定だったとしても、「剣と魔法の世界」の社会は工業化が進んでいないのが通常だ。基本的に銃は工業製品なのだ。
工業社会のインフラがなければ製造も運用もできない(剣にもメンテナンスがいるし、故障=折れたり欠けたりもするが、銃のそれとは比べものにならない)。
もちろん初期の銃もハンドメイドだったが、そのままではものすごい手間のかかるちょっと便利なアイテムにしかならない。
その一番の象徴が弾だ。銃を使えば、確実に弾は無くなっていく。つまり活躍したければ弾がたくさんいるってことだ。そのためには、社会を工業化しなければならない。
これに応えられるシステムはほとんどないと思う。工業化≒科学的な社会と魔法を共存させようにも、科学は素人が扱うには十分に難しいし、魔法は言わずもがなだし、ましてや両者を関係付けるのはさらに難易度が上がるだろう。
では逆に魔法的な原理にするとどうなるだろう。先ほどの通り、銃は工業製品だ。よってそのためには、魔法を工業化しなければならない。
それは魔法が公の存在になるということであり、もともと魔法がメジャーな世界でないと違和感が出てきてしまう。さらにそうなるとそれに見合ったディテールも求められてしまう。
これまたこうした問題に応えられるシステムはほとんどないだろう。社会常識にできるぐらい破綻しない魔法設定を作る労力とリスクを考えれば、魔法は秘密にしておく方が安全だ。(→hekc091001カルトのある社会)
A3:もう十分に効果的だから
そもそも離れた敵が倒せる、ということが十分にすごかったりする。世界の神話に特別な飛び道具があまり登場しないのは、そのためと思われる(大体がゼウスの雷とか、主神の武器だったりする)。
実際、銃の出現後に人間の戦いはまったく変わってしまった(戦争は弾をバラ撒いて死体を作る産業になった。女子供を含め誰もが戦えるようになった)。銃は現実が生み出した魔法の1つだといっても差し支えないだろう。
これだけのインパクトを与えるものを、プレイアビリティを保ちつつ、従来の魔法とは違う存在として運用していくというのは、ちょっと難しいだろう。
もちろん、銃を一種の専門技術として扱う、というのも考えられる。先ほど否定した、とても扱いの難しい、かつ手間のかかる飛び道具としてシステムの裏打ちを付けるのだ。
そのためには、詳細な設定とルールが必要だが、それに加えて、銃そのものに対する造詣が深くなければならない。でないと具体的なイメージが湧いてこないのだ(剣や鎧以上に)。
日本の銃管理はとても厳しく、一般人は銃に接する機会に乏しい。せいぜい映像などで目にするだけだ。実物を見ることも、まして使うことも全くない。現実の銃がすでにファンタジー状態なのである。
こうした状況を逆手に取った解決法の1つが、全員に飛び道具を持たせるというものだ。見たことあるだろ? 魔法も銃もみんなあるというシステム。要するに、名前が違うだけで同じ発射武器と言うわけだ。
かく言う『NOVA』もこの方式に含まれると思う。この方式を採用しようとすると、基本的に設定は掘り下げられない。ものすごい労力が求められるからだ。あくまでも表面的な運用に徹しなければならない。
個人レベルの事象の描写に焦点を当てているTRPGにおいて、これはかなり苦しい。システム設計の段階で、かなり頑張ってもらわないといけないだろう(別の要素、別の面を焦点にして、それぞれの詳細には触れないようにするとか)。
むすびに
HEKCでは以前、近代的な社会に魔法が存在することの難しさについて、考えたことがある。今回はそれをひっくり返したケースだ。魔法のある世界に銃がやって来ることの難しさだ。
アイテム一つとっても、実際には世界設定やゲームシステムと深く結びついていることが表れている良い問題だと思う(まさに全周的だ)。(→hekc091003事実を淡々と)
もっとも最近では「なんでもあり」の世界観が主流になってきているようだ。現実社会の工業化や電子化が進んでいるので、社会そのものの基本イメージが底上げされているからだろう。
ただそれって、世界の持つ原初の姿から離れることでもある。ファンタジー(剣と魔法の世界)が持つ効能の1つは、誰にでも分かるシンプルな世界を感じられることだ。
しかし一見すると簡単な世界は、実は注意深い調整のもとで作られていることが今回の考察で明らかになった。ちょっとシンプル過ぎて物足りないぐらいが調度良いのだろう。
追伸
そういえば、魔法の銃を正面から扱った『ブレット ザ ウィザード』(園田健一 講談社)があったな。
作者は以前にも銃をメインにした作品を書いていたので、十分なディテールが与えられていた。ただ、逆に言えばそのぐらい労力を割かないといけないという、証左でもあった。
| 固定リンク
「ref」カテゴリの記事
- ref20210722問いのデザイン Part1 ワークショップとTRPG(2021.07.22)
- ref20201118生き物の死にざま(前編1)実践! メメント・モリ(2020.11.18)
- ref20200925ほんとはこわい「やさしさ社会」(後編) 個体化の暗黒面(2020.09.25)
- ref20200924ほんとはこわい「やさしさ社会」(前編) 個体化の暗黒面(2020.09.24)
- ref20171005写本の文化誌 マギカロギア的魔道書の起源(2017.10.05)
コメント
個人的にはドラゴンは対空砲火と零戦にめったうちにされてる様が似合うと思いますし、魔法使いは鉛玉に貫かれとけ、シードラゴンは戦艦に殺されとけって感じですね。
投稿: | 2021年10月10日 (日) 00時06分
個人的には愛と勇気で勝ち進む王道の世界で機関砲で魔王を殺すのが好きです。
投稿: | 2021年10月10日 (日) 00時09分